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海外のキャッシュレス事例にみる、日本の決済に必要なもの

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» 2019年01月14日 06時00分 公開

2019年以降、日本のキャッシュレス市場はどう変わるのか。またどうあるべきなのか。海外のキャッシュレス導入事例を挙げつつ、日本にキャッシュレスに必要なもののヒントを探りたい。海外では、日本では見られない、ユーザー視点のユニークな取り組みが多い。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]




 2019年以降、日本のキャッシュレス市場はどう変わるのか。またどうあるべきなのか。前回は2019年(とそれ以降)のキャッシュレス市場の展望を述べたが、今回は海外のキャッシュレス導入事例を挙げつつ、日本にキャッシュレスに必要なもののヒントを探りたい。

海外でキャッシュレスが普及している理由

 そもそも、なぜ「キャッシュレス」が必要なのか。これまでのキャッシュレス議論では「現金の輸送や管理にかかるコストを削減」「レジ締め業務の簡略化」「お金の流れを明確にする」という形で、ほとんどの場合、政府や企業(小売店)側の視点ばかりが語られており、ユーザー側の話題に触れられることが少なかったように思う。

 ユーザーが現金を利用しないメリットは明白で、煩わしい小銭の管理や紙幣の保管、「ATMへ行く」という行為から解放されることにある。実際、生活圏でクレジットカードと電子マネーだけで生活できるなら、筆者のように財布の中の現金が500円未満でも問題ないわけで、それでいて会計はおサイフケータイやApple Payを使って一瞬で支払いが完了し、ちょっと高い買い物ならばクレジットカードを出すだけでいい。

WeChat Pay
中国では自販機でもQRコード決済が使われている。液晶画面に表示されるQRコードをWeChat Payのアプリで読み取るとミニプログラムが起動し、ここで選択した商品で決済することで、連動して動作する自販機から商品が出てくる仕組みだ

 キャッシュレス決済は安全性も高い。クレジットカードのスキミングやPayPayでの不正利用の話を聞いて「どこが安全なんだ?」という方もいるかもしれないが、現金は盗まれた時点で終わりで、基本的に取り返す手段がない。火災や洪水といった災害で失われる可能性もある。そもそも100万円とか数十万円といった現金を持ち歩くことが現実的ではない。カードは盗難や紛失時点でカード会社に連絡すれば止められるし、不正利用に関しては後でチェックして指摘することもできる。

 スマートフォンは遠隔で個人情報を消すことができるし、Apple Payのように決済に際して生体認証やPINコードを要求する仕組みであれば、不正にカードを使われる可能性は低くなる。クレジットカードの認証技術も進化しており、例えば3Dセキュアでは個人認証を行うことでオンラインでの不正利用を防止する。ICチップの入ったクレジットカードでは決済にPINコードが必要になるが、NFCに対応したカードでは一定の少額決済ではPINコードは不要だ。最近は指紋認証センサーを内蔵したカードも登場している。

Gemalto
最近ではICチップ付きクレジットカードの新しいサービスの1つとして指紋認証機能付きのものも登場している。これはGemaltoが提供しているもので、NFC決済端末の発する電波を利用して指紋センサー起動に必要な電源を確保し、認証に成功するとPINコード入力が省略できるようになり、非接触決済における上限金額をパスすることが可能

 北欧がキャッシュレス先進国と呼ばれ、実際に現金決済比率が低い理由は、国や金融機関の方針もあるが、一番の理由は「あえて現金を使う必要がない」からだ。

 もともと北欧を含む欧州ではデビットカード決済が発達しており、実際にカード決済できない店舗は限られている。街の露店でさえ「iZettle」というスマートフォン向け決済サービスを使ったカード決済を受け入れている。

 それでもカード決済では対応できない場合、例えばレストランでの割り勘やお金の貸し借りなど個人間での送金については、スウェーデンの「Swish」、デンマークの「MobilePay」、ノルウェーの「Vipps」のようなサービスが存在し、キャッシュレス化の最後の隙間を埋めている。

 Swishは現地の銀行口座を持つ人が利用できる送金・決済サービスで、相手の電話番号さえ知っていれば送金が可能だ。またキャッシュレス化の恩恵により資金の流れが明確化されているため、確定申告のような仕組みは自動化されている。キャッシュレスは不正蓄財や裏金防止に役立つといわれるが、ごく一般的な市民であれば面倒な税金処理を回避できて透明化されるため、むしろメリットの方が多いと筆者は考える。

iZettle
「iZettle」と呼ばれるスマートフォンを使った決済端末で、ワゴン販売のホットドッグを購入。ちなみにこの店舗は現金非対応なので、Apple Payで決済した


iZettle
ホットドッグを販売するワゴンでは現金お断りの表示が


Swish
ストックホルムの青空市場にて、カードを含むさまざまな決済手段が選択できる。Swishもその一つで、アプリを使って指定の電話番号の人物に送金が可能な送金・決済サービスだ

 2000年代にオンラインでの通販が爆発的に拡大した中国では、多くの人々がAlibabaなどのサービスを利用し、決済用アカウントを持っていた。オンラインで入手できないものはないというほど中国のオンライン通販は充実しており、Alipayの利便性が非常に高い。WeChatも中国で広く利用されている国民的チャットサービスであり、店舗決済対応以前より個人間送金として使われている。

 日本との大きな違いは、これら決済の商圏が非常に広く、“キャッシュアウト”のような仕組みで出金せず、アカウント内に残高を抱えたままでも日常生活で不自由しないことだと考える。中国ではオンライン利用全盛期にスマートフォン普及期が重なったことも大きい。

MobilePay
デンマークで展開されているMobilePayでインフラ担当役員のKim Kristoffersen氏


MobilePay
MobilePay成功の理由の一つとしてスマートフォン普及率9割以上という点をKristoffersen氏は挙げる


MobilePay
MobilePayを使った店舗決済の仕組み。実はNFCではなく、Bluetoothなどを組み合わせた独自形式での実装となっている


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» 2019年01月14日 06時00分 公開

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]




外国人を門前払いにしてはいけない

 中国でのモバイル決済は外国人には優しくない。そもそも外国人はAlipayやWeChat Payアカウントを持ちにくい。交通系ICカードにチャージするには現地銀行口座をひも付けられるが、外国人は比較的大きな駅の有人窓口に並び、現金を渡してチャージしてもらわないといけない。という具合に、現地の電話番号や銀行口座を持たない外国人は、キャッシュレスでは門前払いになってしまう。

上海地下鉄
上海地下鉄の交通系ICカードチャージ機では、現在のところQRコード決済または銀行カード(銀聯カード)経由でのチャージしか対応していない


上海地下鉄
切符での移動を検討してみても、このように硬貨のみしか受け付けていない券売機もあり、一般旅行者には不便この上ない

 一方で、最近はAlipayやWeChat Payの中国外進出が目立ち始めているが、これらサービスが目指すのは「中国人のための加盟店の獲得」だ。MastercardやVisaといった比較的世界中で通用する国際ブランドのカードを持たない中国人にとって、銀聯カード対応店舗と現地通貨のキャッシュが頼りだ。だがAlipayやWeChat Payが普段持ち歩いているスマートフォンでそのまま使えればより便利になる。

 Silkpay創業者兼CEOのAnnie Guo氏によれば、中国人は外国に行くと銀聯やモバイル決済サービスのアクセプタンスマークを探して安堵(あんど)し、実際にサービスのアイコンを見かけることで「我が国のサービスが広く受け入れられている」と誇りと自尊心が満たされているとも指摘する。もちろん、AlipayやWeChat Payが自ら外国でユーザーを獲得するという希望もあるだろう。だが金融は常に規制と各国政府の思惑に縛られた世界であり、実際に日本でAlipayの国内進出が断念させられたように、加盟店開拓よりもさらにハードルは高い。

中国
現在、中国における店舗決済のアプリ決済利用比率は5割を超えており、現金決済は2割程度でしかない


中国
なぜ中国でモバイル決済が人気なのか。特に理由の2番目にある「Patriotism(愛国心)」「Proud(誇り)」に注目。中国外でAlipay、WeChat Pay、銀聯といったアクセプタンスマークを見かけると、安心と同時に自尊心が満たされる傾向があるという

 もし日本がインバウンドを合言葉にキャッシュレスを進めるのなら、アカウント登録を要求する“閉じた”サービスは向かない。中国や周辺国のインバウンド需要をカバーするのなら、AlipayやWeChat Payとの提携を発表しているPayPayやLINE Payが選択肢になるだろう。それよりも広くカバーするならカード決済が現実的だ。

 北欧では、「クレジット/デビットカード」「店舗独自のアプリ決済」、Swishなどの「送金・決済サービス」「現金」の主に4つの支払い手段が存在し、多い店では全てを受け入れ、小規模な店舗でも少なくとも2つの方式には対応する。外国人はカードか現金しか選べないが、ほとんどの店でカードが使えるので問題はない。

 しかもフィンランドを除く北欧3カ国では、それぞれスウェーデンクローネ、デンマーククローネ、ノルウェークローネと国独自の通貨を持っており、外国人が短期滞在のために現地通貨を入手するのは煩わしい。数百円程度の少額決済でも、カードで全て済ませられるならそれに越したことはない。

北欧
北欧では観光地を中心にATMをよく見かけるが、一方で観光客のあまり来ないエリアでは銀行支店どころかATMさえ発見するのが難しいケースがある。これは現地での現金利用傾向を端的に表したものだ


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» 2019年01月14日 06時00分 公開

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]




楽しくなければ決済じゃない

 中国の杭州でAlibaba直営スーパー「盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)」を見て感じたのは、「決済」というのは「買い物体験」の中のプロセスの1つでしかなく、重要なのは体験全体ではないかということだ。

 盒馬鮮生は、Alibabaが運営する近未来型スーパー。ロボットが動いて配膳する本当に近未来的な店舗もあるのだが、実際のところスーパー自体はローテクな部分も多く、それよりはむしろ「来店した人間を楽しませる」ことに主眼を置いている。

 例えば店舗中心部には巨大ないけす群があり、買い物客は生きている魚やエビを併設レストランに持ち込むことでその場で調理してもらい、すぐに食べられる。買い物から食事までが一連の体験になっているわけだ。

 生鮮品コーナーでは天井にコンベヤーが縦横無尽に張り巡らされ、買い物かごがせわしなく移動している。これは盒馬鮮生でピッキングサービスを行っており、アプリで注文すると店員がスーパーの商品を買い物かごに入れ、柱に設置されたリフトにピッキング済みのかごを引っかけて天井のコンベヤーに送り出す。このかごは店舗内の配送センターへと送られ、3km圏内の住所に30分以内に届けられる。一種のオムニチャネルだが、この盒馬鮮生の配送エリア内の住宅価格が高騰しているという話もあるというから面白い。実際に店舗は見ていて飽きない。

 子どもを想定したのか、さまざまな自販機コーナーも設置されており、盒馬鮮生自体が一種の遊び場のような作りになっている。

盒馬鮮生
Alibaba直営スーパーの「盒馬鮮生」では、店舗中央に巨大な“いけす”コーナーがあり、来店者が鮮魚を自由に見て購入できる


盒馬鮮生
購入したシーフードはそのまま併設フードコートのカウンターに持ち込んで調理してもらえる。これはなかなか楽しいアイデアだ


盒馬鮮生
レジはセルフチェックアウト方式で、Alipayによるキャッシュレス決済が可能。現金しか持っていない場合は、現金決済カウンターに行く必要がある


盒馬鮮生
店舗天井にはレールが縦横無尽に走っており、オンラインピッキングサービスを利用した顧客のカートが移動していく様子が見られる。これも一種のエンタテイメントだ

 もし現状で日本のキャッシュレス化に不足している議論があるとすれば、「エンタテイメント性」ではないかと考えている。別の言葉でいえば「ユーザー体験」だ。

 最近増えている「無人店舗」や「レジなし店舗」でも、エンタテイメント性が重要だと考える。筆者は何度かAmazon Goを利用したが、これは快適でなかなか楽しい。買いたいものが決まっているならすぐに目的の商品をゲットして店を出てしまえばいい。

 もしショッピングをじっくり楽しむとしても、退店時は退屈なレジ待ち行列や会計のことは考えないでよく、あくまで買い物に集中できる。「レジなし店舗」という業態の本質は、この「買い物に集中」できるというユーザー体験にあるのだと考える。

 盒馬鮮生についても、買い物が煩わしいならオンラインでピッキングサービスを使えばいいし、買い物や食事そのものを楽しみたいなら実際に来店すればいい。

 「利用者が何を望んでいるか」を想定していない無人店舗やレジなし店舗は受け入れられることはなく、早晩淘汰(とうた)されるだろう。キャッシュレスについても同様で、エンターテインメント性の希薄な独りよがりなサービスは、使われることなくひっそりと消えていくのだろう。余裕がなくなったといわれる日本社会だが、ぜひ元来のエンターテインメント精神を生かして世間をあっと言わせるサービスが登場することに期待したい。

Amazon Go
2018年10月に米サンフランシスコ市内にオープンしたばかりのAmazon Go店舗。ビジネス街のど真ん中だけあり、ひっきりなしに客が訪れる


Amazon Go
サンフランシスコのビジネス街にはもう1ほどAmazon Go店舗が出現することが予告されており、2019年の急拡大が見込まれている


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Source: IT総合情報

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