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女子向けワイン酒場「ディプント」をヒットさせたプロントの“緻密な戦略”

特集
» 2019年03月05日 05時00分 公開

プロントが運営する女性向けワイン酒場「ディプント」。2009年に1号店をオープンしてから40店舗近くまで増えた。ヒットの要因と強さの秘密を解き明かしていく。

[三ツ井創太郎,ITmedia]


なぜあの企業は「戦略転換」したのか:

 事業がうまくいっても、それが長く続くとは限らない。時代に合った新事業の立ち上げや経営方針の転換ができれば、持続的な成長につながるだろう。しかし、新しい戦略を実現し、成功させるのは簡単ではない。戦略転換した企業の収益の推移を追いかける。

連載第1回:「回転しない寿司」路線から6年 元気寿司が思い知った“意外な効果”

連載第2回:本記事

 飲食店コンサルタントの三ツ井創太郎です。今回は、飲食企業の「戦略転換」についてお話させていただきます。

 企業は時によって大きな戦略転換に迫られます。本年に予定されている消費増税やオリンピック後の景気動向、人材不足など、経営環境の不透明な中で一つの事業、または企業全体の戦略転換を考えている企業も多いかと思います。今回はこうした中で過去に時代の流れや顧客ニーズを正しく捉え、上手に戦略転換を行った企業の成功要因を分析することで、これからの不透明な時代を生き抜くための戦略転換のルールを導き出していきたいと思います。

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人気のディプント(出所:ディプント公式Webサイト)

ディプントの成功事例

 みなさんは「Di PUNTO(ディプント)」というお店をご存じでしょうか。ディプントはカフェ&バー「PRONTO(プロント)」を運営するプロントコーポレーションが展開するブランドです。2009年12月、神田に1号店をオープンし、現在では「カフェ以上、ワインバー未満のカジュアルなワイン酒場」というコンセプトで、東京を中心に36店舗を展開するチェーンに拡大しています(2018年12月末時点)。

 なお、本体のプロントは1988年、東京・銀座に1号店を出店しました。プロントはお酒の業態に強みを持つサントリーグループとコーヒー業態に強みを持つUCC上島珈琲の2社がタッグを組んでつくった「昼はカフェ、夜はバー」という二毛作ビジネスの先駆け的な業態です。当時、二毛作戦略で成功しているカフェの事例はほとんどなく、カフェ業界においては新たな戦略として注目されました。

 そんな「二毛作カフェ」という戦略転換で成功を収めた同社の新たなチャレンジとして誕生した業態がディプントです。

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ディプント店内の様子(出所:ディプント公式Webサイト)


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[三ツ井創太郎,ITmedia]


女性客を攻略するカギ

 「ディプント」は最初から現在の業態であったかというとそうではありません。オープン当初はハイボールを中心としたメニューで展開していましたが、ワインを中心としたメニューに戦略的に転換したことで、右肩上がりに売り上げを伸ばしていきました。

 ディプントは女性客をメインターゲットにしています。そして「女性客にとっていかに使い勝手が良いお店にするか」ということを業態&メニュー戦略の軸にしています。

 一般的に、男性客はお店の「機能性」を重視するのに対して、女性客は「情緒感」です。そのため、ディプントは店内のインテリアやメニューなど、全ての面において女性目線で業態を作り込んでいます。実際に店内を見てみると装飾品などを含めてオシャレな内装になっています。こうした戦略により、現状の女性客の割合は70%を超えています。メニュー戦略にも女性に圧倒的に支持される秘密が隠されています。「カフェ以上、ワインバー未満のカジュアルなワイン酒場」という戦略がどのようにメニューに反映されているのか、プロントと比較しながら見ていきます。

女性客に支持されるフードカテゴリー

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各種資料をもとに筆者作成

 プロントとディプントのメニューアイテムのカテゴリー構成比を比較したのがこのグラフになります。これを見ると「チーズメニュー」にかなり力を入れていることが分かります。実際にアイテム数を見ていくと、プロントのチーズ系メニューが1アイテムなのに対して、ディプントには11種類ものチーズを使ったメニューが存在しています。また、お肉を使ったメイン料理に関しても、プロントが2アイテムであるのに対して2倍以上の5アイテムを用意することで、カジュアルにディナーを楽しめるお店としてのポジションを打ち出しています。

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各種資料をもとに筆者作成

 ドリンクメニューに関しても両店の戦略は大きく違います。プロントがカクテルやウイスキーを主体としたバー業態であるに対して、ディプントはグラスワイン、ボトルワイン、サングリアといったワイン系メニューの構成比が圧倒的に高い商品構成となっています。

 一般的に飲食店の利用客は同一カテゴリーの商品が30アイテム以上あると、そのお店を「専門店」として認識する傾向がありますが、ディプントのワイン系アイテムは50アイテムを超えており、このアイテム数が「ワイン酒場」としての専門性を強める要素になっています。


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[三ツ井創太郎,ITmedia]


ワインに親しみやすい工夫

 ワインメニューを見てみると、さまざまなワインの味や特徴などが分かる「理想のワインが見つかるワインマップ」が掲載されています。あまりワインに詳しくない人でも、このワインマップを確認することで、自分好みのワインを探せるのです。さらにはこのワインマップの表現方法にも工夫があります。ワインの特徴が専門用語などではなく「マッチョ」「スマート」「強い」「やさしい」など、誰でも味をイメージしやすい言葉で表現されています。

 こうした訴求戦略により、ただ単に自分好みのワインを見つけられるだけではなく、複数回来店していくうちに「ワインに詳しくなれる」というメリットもあります。「ワインに興味があるけれど、わざわざ教室に通うまでではない」といった潜在的なファン層に対して、ワインの知識を気軽に学べる場としての役割も果たしていると言えます。

フード価格の工夫

 最後にフードメニューの価格戦略を見ていきます。

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各種資料をもとに筆者作成

 プロントは500円以下の価格帯に商品を集中させています(全体の56.4%)。一方、ディプントは500円台の価格帯のメニューを35%程度そろえ、プロントにはない1000円以上の価格帯のメニューを20%近くそろえています。

 プロントよりは少し高いがワインに合う500円台のおつまみメニューを充実させることで「気軽に来店できる専門店」として、女性の仕事帰りの“ちょい飲み需要”を上手に獲得しています。一方、1000円以上のメニューを用意することで、しっかりと食事ができる“カジュアルディナー需要”も獲得できているのです。

 最もアイテム数が多い価格帯のことを「中心価格帯」と言います。一般的には中心価格帯の6倍がそのお店の想定客単価になります。ディプントの中心価格帯は500円なので、このメニュー設計から想定される客単価は次の公式で表されます。

500円(中心価格帯)×6=3000円(想定客単価)

 ディプントはこうしたメニューアイテム戦略、価格戦略を実行したことで、当時飽和状態であった和食居酒屋との差別化を確立すると同時に、空白マーケットであった「女性が仕事帰りに気軽に立ち寄れる客単価3000円の洋風居酒屋」というポジションを獲得できました。

 こうした女性向けの業態開発を行う外食企業は他にもありますが、成功させるのは簡単ではありません。その点、ディプントでは業態開発段階からプロジェクトに女性スタッフを多く起用し「女性にとって居心地が良く、使い勝手も良いお店とは?」ということを徹底的に議論し、それら一つ一つを忠実に実現してきました。この「こだわり」こそが業態の完成度を高めるのです。実際に店内を見てみると、イタリア産のトマト缶が料理の提供台として使われていたり、メニューブックがかわいらしいイラストで構成されていたり、グラスワインのラインアップが10種類以上用意されていたりと、他のチェーンでは「コスト増」「非効率」として排除されてしまうようなこだわりを随所に盛り込んでいます。


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[三ツ井創太郎,ITmedia]


収益性を高めるための戦略転換

 それでは次に、ビジネスモデルについてより詳細に分析していきましょう。プロントとディプントの収益モデルを比較していきます。

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各種資料をもとに筆者作成

 両業態の償却前利益を比較するとディプントの方がプロントより3%高いことが分かります。その要因をさらに細かく分析するために、飲食店において重要な経営指標である「FL比率」を見ていきます。FはFood costの頭文字で売上原価(食材費)という意味になります。LはLabor costの頭文字で人件費を意味します。つまり、FL比率とは原価率+人件費率の合計です。

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各種資料をもとに筆者作成

 FL比率を分析していくと、ディプントの方がプロントよりも人件費率が3%程度高いことが分かります。これは、プロントが対面式のセルフサービス業態(夜はフルサービス)であるのに対し、ディプントはフルサービスを行っていることに起因しています。その一方で、売上原価に関してはプロントよりも3%低く運営できています。これによりFL比率は両店とも60%に抑えられています。つまり、フルサービスを行うことによって増加した人件費コストを、売上原価で吸収できているのです。これは戦略的なメニュー設計がないと実現しません。ただ、トータルのFL比率を見る限りはディプントの優位性は見えてきません。そこで次に家賃比率を見ていきます。

 家賃比率はディプントが12%、ディプントが8%となっています。ディプントはプロントよりも4%も低いことが分かります。この要因は業態のモデル坪数に起因しています。両業態のフランチャイズ募集資料からモデル坪数を見ていくと、プロントのモデル坪数は40坪なのに対して、ディプントのモデル坪数は25坪となっています。つまり、ディプントの方が狭い面積で営業できるのです。当然ながら賃料は面積に比例して高くなりますので、面積が小さければ家賃を抑えることが可能です。

 一方、面積が小さくなると売り上げも少なくなるかというと、一概にはそうとは言えません。同じく両モデル月商を確認していくと、プロントは月商900万円、ディプントは同800万円となっています。一見するとディプントの方が月商は100万円ほど低くなっていますが、売り場の生産性の指標である坪効率(1カ月の売上高÷売り場面積〈坪〉)で見ていくと次のようになります。

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各種資料をもとに筆者作成

 プロントの坪効率(1カ月の1坪当りの売り上げ)は22万5000円であるのに対して、ディプントの坪効率は32万円であり、ディプントの方が生産性が高い業態であることが分かります。


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[三ツ井創太郎,ITmedia]


ディプントの方が生産性が高い理由

 では、なぜ坪数が狭いディプントの方が生産性が高いのか? それは客単価にも起因しています。飲食店の売上高は次の公式で表されます。

売上高=客数×客単価

 ここで両業態の客単価を見ていきます。

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各種資料をもとに筆者作成

 プロント業態の客単価は昼が400円、夜が1500円程度となります。昼と夜の客数構成比は立地によって大きく変わりますが、仮に昼85%、夜15%とすると昼夜を合わせた平均客単価は565円となります。計算式は(昼客単価×昼客数構成比)+(夜客単価×夜客数構成比)です。

 一方でディプントのディナー営業のみ店舗の客単価は3200円程度となります。この客単価を逆にモデル月商から割り戻すと必要な客数が見えてきます。

売上高÷客単価=客数

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各種資料をもとに筆者作成

 計算を行うとプロントの月間客数は約1万6000人、ディプントは2500人となります。もちろん、業態が全く違いますので一概に比較はできませんが、一つのビジネスモデルとして考えた場合にディプントはプロントの6分の1程度の客数で成立することになります。

 また、坪数が少ないため、内装費などの設備投資費用も抑えることができます。実際に両店の設備投資金額を比べてみます。

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各種資料をもとに筆者作成

 プロントの設備投資が3750万円であるのに対し、ディプントは3000万円と750万円も低いことが分かります。先ほど「償却前利益はディプントの方がプロントよりも3%高い」と述べましたが、設備の減価償却を加味した後の営業利益に関しても、設備投資金額が低いぶんディプントがさらに高くなります(同条件で減価償却を行った場合)。

 ここまでで、ディプントがいかに効率性を意識した店舗戦略を行っているかがお分かりになったかと思います。ディプントは収益性の追求だけではなく、ターゲットを明確化した上で、ターゲットが求めている専門店としてのマーケティング戦略を分析研究しています。さらに、その業態モデルを内装やメニュー上で緻密に表現することで戦略転換に成功したのです。

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表取締役。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う傍ら、日本フードビジネス経営協会の理事長として店長、幹部育成なども行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。


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Source: IT総合情報

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