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自由な働き方を実現させる最終兵器 「ABW」は日本で根付くのか?

インタビュー
» 2019年03月05日 05時30分 公開

最近、欧米の企業が相次いで導入し注目を集めている勤務形態「ABW (Activity Based Working)」。仕事の内容に合わせて、好きな時に、好きな場所で働く、この働き方は日本で根付くのだろうか?

[田中圭太郎,ITmedia]


 仕事の内容に合わせて、好きな時に、好きな場所で働く。これは欧米で広がりつつある働き方「ABW(Activity Based Working:アクティビティー・ベースド・ワーキング)」だ。

 しかし、「ABW」は日本の企業にまだ十分理解されていない――。こう指摘するのは、オフィスデザインや工事を行うフロンティアコンサルティング(東京都中央区)執行役員の稲田晋司氏だ。設計デザイン部門を担当する稲田氏は、海外のオフィス環境やワークスタイルにも精通し、自社のオウンドメディア「Worker’s Resort」で海外の働き方やオフィス事情などの情報も発信している。

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フロンティアコンサルティングのオープンスペース。社員のランチスペースや協力会社との打ち合わせに利用。視点を変えるために3段階の高さで椅子を設定している(同社提供)

 一方で稲田氏は、日本でも働き方改革関連法の施行を控え、働き方の意識が変わりつつあると話す。5月1日に平成が終わり、新たな時代を迎える。長時間労働が当たり前になっていた「昭和の働き方」から、価値観も含めて変化していかなければならない。「ポスト平成時代」が訪れる中、旧態依然とした働き方を変えていくには、企業と働く人それぞれに何が求められるのか。稲田氏に聞いた。

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稲田晋司(いねだ しんじ)。フロンティアコンサルティング執行役員(管轄:設計デザイン部門・アメリカ支社)。1980年東京都出身。建築設計事務所にて住宅の設計を中心とした業務に従事し4年半勤めた後、オフィスデザイン業界へ。2007年フロンティアコンサルティング設立時より参画し、デザイナーとしてキャリアを重ねつつ09年に一級建築士を取得。現在、海外拠点とあわせて約70人のデザイナーを抱える設計デザイン部門を統括する。またクリエイティブディレクターとして、クライアント企業のオフィス構築プロジェクトに関わる傍ら、海外支社設立や、社内の業務改善や新規事業を推進。オウンドメディア「Worker’s Resort」の運営責任者として国内外のオフィスや働き方をリサーチしている

「働き方」で学生が企業を選ぶ時代に

――ポスト平成の働き方を考える前に、まず前提として日本企業の働き方の本質は、朝出社して夕方帰宅するのが主流で、昭和の頃からあまり変わっていないように感じます。昭和から現在までの価値観の変化をどうみていますか?

 昭和の働き方は、成果よりは働いた時間で給与がほしいという考え方でした。これは働く人だけでなく企業も同じで、基本的には時間に対して給与を支払っていた傾向が強いと思っています。平成になるといわゆる「成果主義」が出てきて、いろいろな働き方を考えるようになり、現在までに選択肢が広がってきたのは確かです。

 ただそれぞれの選択肢を実行できているかというと、実際はできていませんでした。それが、今年4月から働き方改革関連法も順次施行されることで、土壌のようなものができてくるのではないでしょうか。元号が変わる今年以降は、多様な働き方の実行フェーズに入ってくると思っています。

――実行フェーズに入ってくるというのは興味深く感じます。そのような動きを具体的に感じている部分はありますか?

 先日「Worker’s Resort」の取材で、大学生に就職活動の際に何を重要視しているかを聞きました。経営者など人の魅力、事業内容、給与、働き方、知名度、勤務場所、企業文化の7項目で、順番をつけてもらったのです。

 1番上にきたのは給与でした。意外なのは、2番目が働き方だったことです。事業内容や人の魅力、勤務場所よりも、働き方が上にきたことに驚きました。法律も変わってくる中で、学生が働き方を新たな選択軸としていることが、まさに世相を反映していると感じています。

――学生の方が、働き方改革に敏感に反応しているのですね。

 面白かったのは、学生にどういう働き方をしたいのかを聞くと、一人ひとり答えが違うことです。勤務時間は自由にさせてもらって成果で評価してほしい、という学生もいれば、従来のように時間を管理してもらわないとやれる自信がないという学生もいます。働いている時間分の給与をもらえればいいと。

 つまり、何が正しいとか、どちらがいいとかではなくて、いろいろな選択肢を作ってあげることが大事です。企業は今後、働き方の選択肢を広げることで採用面でも強くなるでしょうし、離職率を上げないことにもつながってくると思っています。

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フロンティアコンサルティングの執務エリア(South West)。目的に合わせたデスクと椅子を気分やシチュエーションで選択できる


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オープンスペース


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インタビュー
» 2019年03月05日 05時30分 公開

[田中圭太郎,ITmedia]


オフィスは服装と同じで「最適化」が必要

――経営者に話を聞くと、オフィスをどう作るかについては、採用と同じくらい悩んでいるといいます。働き方とオフィスの関係をどのように捉えていますか。

 オフィスは作るのには膨大な費用がかかりますよね。東京の賃貸では、坪単価の平均は2万円くらいなので、例えば200坪だと月400万円。年間で4800万円です。

 最初に内装工事も必要になりますから、坪20万円から30万円で工事をしたとして、4000万円から6000万円。最初の2年間で1億5000万円くらいかかります。ある意味、新規事業ができるくらいの費用です。

 それぐらいの費用をかけているのにもかかわらず、いままでのオフィスは事務作業をする場でしかありませんでした。だからオフィスをもっと活用したほうがいいと思っています。

――オフィスは部署ごとに席があるといったイメージですが、どのように変えていけばいいのでしょうか。

 リアルな場所を用意する理由や、その場所の役割を、企業がしっかり考えることが大切です。社内の情報は外では話せませんから、コミュニケーションの場は必要になります。研究開発をする場所もオフィスにしか作れません。何のために使うのかを考えれば、オフィスは企業ごとに違った形になると思います。

――企業が成長すると、オフィスを広くしなければならないという課題も出てきますよね。

 オフィスは服装と同じだと思っています。仕事をする時はスーツ、スポーツをする時はジャージ、ボランティアにいくときはラフな格好など、活動によって服を変えますよね。でもオフィスの場合は、事業内容や仕事のやり方が新しくなっても、変えるケースは少ないでしょう。

 そうなると、働いている人の中には、スーツを着てサッカーをしているといった状態の人もいるわけです。それでは100%のパフォーマンスは出せません。最適化ができていないのです。その時のパフォーマンスが最大化できるように、事業内容にあわせてオフィスを作り変えていくことが必要だと思っています。

 その時に、企業としてはできるだけ経費を削減したいので、人数が増えても面積の拡大をできるだけ抑えたいと思うでしょう。でも、家賃の安いところに引っ越せば、面積を広げることはできますし、投資のやり方も、最初に予算全額をかけるのではなく、まず7割の予算でオフィスを作り、残った3割の予算で継続的にオフィスを変えていくやり方もあると思います。

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エントランス。受付端末にミラーサイネージを設置している


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[田中圭太郎,ITmedia]


ABWは、日本では難しいのか

――好きな時に好きな場所で働くABWの導入は、日本でも進んでいくと思いますか?

 私たちもABWについて発信していますが、日本の場合、ABWはオフィスの中だけのことだと思われています。そうではなくて、外で働く環境も含めて、選択肢をきちんと作っていくことがABWだと考えています。

 働く時間については法制度も関わってきますし、日本の商習慣からオフィスの外で働くことがなかなか難しいのは事実ですが、そこを捉えながらやらないと意味がありません。現時点で言えば、ABWで発揮できる100%の能力の、30%くらいしか日本は活用できていないと思います。

――確かに、オフィスの外で働くことは、部下と上司の信頼関係がなければできないと思います。ABWを活用するのは、日本では難しいのでしょうか。

 私は働き方を考えることは、文化人類学を学ぶことに似ていると思っています。働き方はその国の文化や教育制度に影響を受けています。ABWを100%実施しようとして、いつどこで働いてもいいとなっても、日本人全員がいきなりできるわけではありません。

 ただし、その働き方が合う人を100人集めれば、その人たちはできるはずです。そういったことを踏まえながら進めた方がいいでしょう。日本の教育制度も変わりつつあり、アクティブラーニングなど小学校の勉強の仕方も変わってきているので、今の子どもたちが成長したときに、文化と合わせて働き方も変わっていくと思います。

 その前に必要なのは、働き方についての考え方を社会で作ることです。アメリカはスキルさえあれば、採用や待遇について新卒も中途も関係ありません。オランダは、小学校の時から授業を自分で選択するそうです。勉強したいものを自分で選ぶので、能動的な動き方ができます。

 これからの日本に合った考え方を作ることで、採用やオフィスの在り方、外の環境の使い方も変わってくると思います。

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オープンスペース。視点を高くして「創造性の刺激」を狙っている


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執務エリア(South West)。営業職、バックオフィス職などが使用。東京本社はデスクの約70%がフリーアドレス


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» 2019年03月05日 05時30分 公開

[田中圭太郎,ITmedia]


「働き方」の研究費が少ない日本

――それでは働き方についての考え方を、日本はどういう方向で探っていけばいいのでしょうか。

 現状では働き方やワークプレイスに関する研究や開発に、日本はあまり力を入れていません。どこがこれまで研究や開発をけん引してきたかというと、オフィス家具メーカーを挙げることができます。日本オフィス家具協会(JOIFA)には、2018年7月現在で107社が加盟しています。

 これは加盟社数が65社だった当時の数字ですが、全社で2400億円の売り上げがあるうち、研究開発費は26億円と1%程度しかありませんでした。日本には6700万人の労働人口がいるのに、その人たちの働き方の研究費が26億円だと思うと、ものすごく少ない。

 しかも企業としては同じ環境を社員全員に与えようと考えるので、平均化された、標準化されたプロダクトが求められてきました。万人受けするものは70点か80点はとれますが、その人にとっての100点にはなりません。残念ながらそれがいままでの日本の働き方やサービス、製品の作られ方でした。

 しかし、これからパーソナライズ化は、重要なテーマになってくると思います。これは一つの例ですが、ソニーがアロマスティックという製品を開発しています。アロマは空間に広がるので、嫌いな人からすれば不快ですよね。でもこの製品は筒状になっていて、周りを気にせず自分の好みの香りを楽しむことができます。

 この製品のコンセプトは、自分に合ったものを、自分だけが使えるというものです。働き方も同じで、この考え方は多様な働き方の実現につながってくると思います。

 6700万通り、一人ひとりに合ったオフィス家具やサービスを作るのは難しいかもしれませんが、今限られた数だけある優れたものを、もっと広げていくことはできるはずです。働き方を支え、生産性を上げるためにも、研究や開発はもっと増えるべきだと思います。

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エントランス。待ち合わせ場所


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ソニーのアロマスティック。自分好みの香りを楽しむことができる


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» 2019年03月05日 05時30分 公開

[田中圭太郎,ITmedia]


地方は働き方で人を呼び込むチャンス

――ABWなどの働き方は、東京など都市部では議論になっていますが、地方にも可能性があると思いますか?

 田舎で働きたいという人は、これから増えてくるのではないでしょうか。ワークスタイルをテーマにした世界的なカンファレンスイベント「WORKTECH」が昨年国内で初めて開催されました。その中でさまざまな登壇者が口にしていたのが、「アライメント」という言葉でした。

――どのような意味ですか?

 バランスをとる、均衡をとるという意味です。デジタル化が進んでいるので、バランスをとるためにオフィスに観葉植物を用意したり、東京で働いている人が田舎で働いてみたくなったりするということですね。人間にはバランスを取ろうとする性質があるようです。

 田舎には仕事がないと言われますが、どこでも働こうと思えば働ける時代になってきました。そこに働ける環境さえあれば、行ってみようという人も出てくるのではないでしょうか。働き方という部分で人を呼び込むことに力を入れていけば、地方は今後面白くなると思います。

 それと副業がもっと認められるようになるといいですね。副業が可能になれば、本業がある人でも自分が育った地元の活性化に関わることができます。地元に貢献したいと考える人は、かなりいると思います。地域を盛り上げていく動きは、東京の都市よりも地方はやりやすいのではないでしょうか。

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執務エリア(North East)。設計職が使用


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斜めに傾いた書棚を採用。「こうすれば本が倒れないからです」(稲田氏)


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» 2019年03月05日 05時30分 公開

[田中圭太郎,ITmedia]


海外の取り組みを結果まで追う

――オフィス事業はコンサルタント、不動産業、建設業という職種だと思いますが、「Worker’s Resort」で海外の情報を発信しているのははぜですか。

 オフィス事業は基本的にBtoBですが、メディアを持つことで個人に向けての接点がもてます。ワークプレイスだけでなく、働き方に考え方をシフトしている企業の情報を個人にも伝えていきたいと考えて始めました。

――米国に支社がありますが、稲田さんとアメリカ支社で連携して取材をしているのですか。

 米国の大学を卒業後に、日本と米国とを行き来しながらキャリアを積んだ生駒一将という20代の編集者兼ライターと、私が年に数回出張で訪れながら、2人で取材を行っています。生駒は米国で働いていたので、彼の知見や人脈もあります。

――取材ではどのようなことを意識していますか。

 例えばこの制度を導入しましたというリリース情報は入りやすい一方、その結果どうなったのか、という話はなかなか入ってこないのが実態です。それで現地へ行って取材して、実際どうなったかを調べて書くことが多いのです。

 米国ではいま、企業の中にカフェを作ることを禁止する動きがでています。Facebookはカリフォルニア州マウンテンビュー市に新しいオフィスを作りましたが、無料のカフェテリアをつくることを禁じる規制が市議会で可決されました。

 この規制が作られたきっかけは、同じ市内にあるグーグル本社の無料カフェテリアの影響で、周辺の飲食店の経営が成り立たず、オーナーから苦情があがったことでした。サンフランシスコ市でも同様の法案が提案されましたが、こちらは否決されました。この問題は他の都市でも広がる可能性がありますので、動向を追い続けています。(参照記事:「企業カフェテリアが禁止に?巨大テック企業従業員も困惑の事情とは」Worker’s Resort 2018年11月13日

――他言語展開をしていますが、どれくらいの国の人に読まれていますか。

 日本語版を週1回か2回上げるようにして、あとは英語、ベトナム語、中国語で展開しています。英語版は反響が大きく、117か国から流入があります。ベトナムでは国営放送からインタビューをうけて、30分のテレビ番組が放送されました。ベトナム語での放送だったので、何を話しているかが私は分からなかったのですが(笑)。内容は米国の情報が多いものの、これからはもっと欧州の情報を拾っていきたいと考えています。

 意識していることは、日本の企業の方が読んだときに、日本だったらこうすればできるのではないかと思ってもらえるように、ローカライズして書くことです。そうすることで経営者に対して、働き方について考える必要性を啓蒙できればと思っています。

経営者が新しい取り組みを許容できるか

――ローカライズを意識されているのは、働き方改革は経営者が理解しないとできないと考えていらっしゃるからですか?

 日本企業の場合、総務が働き方改革と向き合うことが多いと思いますが、総務は何かを削減することから始めがちですよね。またそのような役割を求められている方が実際多いのではないかと思います。でも新規事業をつくるとか、他社と差別化するとか、削減とは真逆の働き方改革も必要だと思っています。その決定は、経営者しかできないことです。

 経営者は新しい取り組みを許容して、やりたい人がいたら認めてあげる。そういう文化を企業の中で作っていく必要があります。何もしなければ、同業他社がどんどん成長して、取り残されてしまうのではないでしょうか。

 さらに言えば、働く人自身が環境を選ぶことも大切になってくると思います。経営者が決断して、ソファ席や個別ブース、スタンディングなどさまざまなスペースを用意できても、使う人が自分の活動に合わせて最適な場所を選ぶ動きがないと、結局使われなくなります。

 ABWは人の活動ベースで働き方を考え、生産性を最大化するための働き方改革の戦略です。企業が用意した選択肢と、働く人の能動的な選択が合致することで、生産性の高い活動ができるようになると思っています。


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会議室。壁面はホワイトボードになっていてペンで自由に書き込める


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インタビュー
» 2019年03月05日 05時30分 公開

[田中圭太郎,ITmedia]


日本はもっと踏み込んだ議論が必要

 以上が稲田氏へのインタビュー内容だ。インタビューを終えて、働き方に対する問題意識が、企業だけでなく個人レベルでも高まっていることを実感した。特に、これから多様な働き方の選択肢を用意できない企業は、採用活動でも不利になるという稲田氏の指摘には納得させられた。

 働き方で仕事を選ぶときに根強い人気があるのは、比較的定時で帰れる地方公務員というのが、筆者が持っているイメージだった。しかしそれは昭和から続く、日本の働き方の典型的な価値観といえる。

 そうではなくて、時間も場所も含めて、個人に最適な形で働く環境を作ることが、経営者の決断次第で可能だと理解できた。パーソナライズ化はこれから就職する世代にも合っていて、いい効果をもたらす可能性がある。

 欧米の企業は相次いでABWを導入して、生産性を上げているという。日本ではいよいよ働き方改革関連法が4月から順次施行される。制度改革だけではなく、働く人も、企業も、社会全体も良くなるように、働き方についてもっと踏み込んだ議論が必要ではないだろうか。


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Source: IT総合情報

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